19 紐解かれる過去 (その2)


 「ライ。お前は、間違っていたと思うか?わたしのしてきた事が」

 三歩後ろに下がって跪く臣下へ、神はおもむろに問いかけた。
 いつになく、強めの香を焚いていると、ライは思った。
 そして、神の心中も、穏やかではない、と。
 
 「いえ。失礼を承知の上で仮定させて頂いて、もしその時私が神の立場だったとしても、きっと、ガナシュ島を滅ぼしていたと思います。神はまだ、お優しい。私なら……ガナシュ島もろとも、地空一族も絶滅させていたと思います」

 神は深く息をつくと、虚ろな瞳で宙を見つめた。
 
 「わたしには、それはできなかった。できない理由が、あったのだ」
 「できない……理由、ですか」
 「そうだ。わたしには叶えたい望みがあった。そしてそれを叶えられるのは、地空一族のみなのだ」
 「……彼らを生かし続けることを選び、監禁に踏み切ったのも、それがあったからなのですか」

 神は少し黙り込んだが、不敵な笑みを含みつつ、再び口を開いた。

 「あそこに収容している地空一族は、すべてハズレだ。もっとも、監禁当初は大きな期待を抱いていたが。しらみつぶしに調べた結果、彼らはわたしの望みを叶えられるだけの能力を兼ね備えてはいなかった。そう……ハズレ、だったのだよ」

 ライは、はっと息をのんだ。
 地空一族の特殊能力。『延命』。
 彼らの中に、特にその延命能力にすぐれた男がひとり、存在したという。
 その男が、神に、千年の命をもたらした。
 しかし彼はその後、行方をくらまし、後に遺体で発見されている。

 狂い死に、だった。

 「察しの通りだ。わたしは、『彼』と同等か、それ以上の能力者を探し出そうとしていた。しかし、誰ひとりとして、わたしに『永久の命』をもたらすことのできる者は、あらわれなかったのだ」
 「それならば、監禁している彼らにはもう用が無いわけですよね。彼らを生かしておく必要などないのでは?」
 「あるさ」

 凍てつくような眼差しで、神は言った。
 その、すべての闇を知っているかのような神の眼差しに身の毛がよだち、ライは思わず小さく身震いした。

 「このわたしを暗殺しようとした、勇気ある彼らに。自由の無い、生を。わたしの元でしか生きられない生を。生きて頂くのだよ、彼らには。死ぬことなど、絶対に、許さない。わたしから光を奪った者たちに、感謝のきもちをこめて、闇を贈りたいのだよ」


 * * *


 ヒカリは、くちびるをかみしめた。
 自分たちの一族が、神を暗殺しようとしたことを、ティティからきかされ、戸惑いを隠しきれない。

 「しかしぼくは、地空一族がしようとしたことは、正しかったのかもしれないと、思っています」
 「……そうなのかな。ちょっと、複雑だよ、やっぱり」

 地空一族は、神へ千年の命をもたらした男が行方をくらませた後、神の暗殺計画を企てた。
 地空一族は、こよなく、自然を愛した。
 『延命』という能力を持つがゆえに。
 人が、持って生まれた寿命というものの尊さを、知っていた。
 だから余計に、許せなかったのだ。
 自分たちの一族の中から、千年の命という延命を施した者が、出てしまったことを。
 
 そもそも、『延命』には、掟があった。
 いくつかある掟のすべてを厳守すると誓った者だけが、その能力を使うことができる。
 その掟の一つに、<五年を超える延命は施してはならない>というものがあった。
 それを、何倍も飛び超えた、千年の命が、生まれてしまった。
 このままに、してはおけない。
 一族のしでかした不始末には、一族で始末を……
 そう、考えた。
 特別機関が設立され、速やかに、計画は遂行されようとしていた。
 『延命』能力は、集合させると、巨大な命になる。
 どこまでも巨大になり。
 そうして、はちきれんばかりにふくれあがった命は、『無』に還る。

 神を、『無』に。

 しかし、神は強大な相手だった。
 最後の最後で、特別機関は返り討ちにあった。
 地空一族の暗殺計画に怒り狂った神は、彼らの住むガナシュ島を、炎上させた。
 ガナシュ島は、ごうごうと燃え盛りながら、地上へと墜落していった。
 その時ガナシュ島で暮らしていた地空一族は、全滅した。
 神は、地空一族を絶滅させる勢いだった。
 しかし、神は、立ち止まる。
 焼け焦げる匂いと。
 どこまでも黒く立ちのぼる煙の中で。

 自分はまだ、手に入れていない。
 まだだ、欲しいものはまだ、この手につかんでいない。

 神は、地空一族を殺すことをやめた。
 地上、空島、それぞれに散り散りに暮らしていた地空一族の生き残りを、すべてかき集めた。
 自分の手元に置き、ひとり残らず、彼らの延命能力のレベルを調べた。
 レベルを偽ろうとするものからは、光を奪った。
 失明させたのだ。
 神が、彼らからそうされたように。

 情けなど、砂粒ほども残っていなかった。
 容赦など、死んでもするものかと思った。


 「と。神から、話をきかされた事があります。総指揮官と、二人で」

 力無く苦笑するティティに。
 ヒカリは、どんな言葉をかければいいものか、悩んだ。






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